読売新聞 「NZ総選挙、与党陣営が過半数で政権維持」(11/26)
日経新聞 「ニュージーランド総選挙、投票始まる 国民党の政権維持が有力」(11/26)
産経新聞 「キー政権、続投の勢い NZ総選挙、投票始まる」(11/26)
…これら3つの記事の中で、現行の制度が連用制であると記載されています。
Googleで「ニュージーランド 連用制」のキーワードで検索してみると、たくさんのブログ等で同じような記述がみられます。
また、Wikipediaでは、「小選挙区比例代表連用制」「小選挙区比例代表併用制」「ニュージーランド」などの記事において同様の記述がみられます(2011年11月29日現在)。それらの記事の履歴を調べてみると、「併用制」の項で2006年5月29日に加えられた変更が、もっとも早く「ニュージーランドは連用制」としたものだと思われます。もう5年以上もその記述が残っているわけで、おそらくブログ等に書かれていることはWikipediaを参照したものが多いのではないかと思われます。
問題はさらにあります。ニュージーランドでは総選挙に合わせて選挙制度についての国民投票が行われました。国民投票のために、各選挙制度を紹介するパンフレットが多くの言語で作られ、日本語版もあります(リンク)。そこでも、現行の制度が「連用制」と訳されていました。おそらくこれは、翻訳した人が、現在流布している誤解を見てその用語を使ってしまったのだと思われます。しかし、ニュージーランド政府の公式な文書での記述であるため、これを元に更に誤解が広まってしまうことが懸念されます。
3つのどれもが、小選挙区制と比例代表制を組み合わせた制度であることに違いはありません。違いは、どのように小選挙区と比例代表が組み合わされているかによります。
まず、並立制は、現在の衆議院議員選挙で使われている制度です(1994年の法改正により、1996年総選挙から実施)。小選挙区部分と比例代表部分は別個に実施され、各党の総議席数は、小選挙区部分での獲得議席と比例代表部分での獲得議席の和になります。
併用制では、各党の獲得議席数は、比例代表部分の得票率によって決定されます。小選挙区での当選者はもちろん議席を獲得しますが、最終的な議席数を比例代表によるものに一致させるため、比例名簿から当選者が追加されます。
単純な例を使って両者を比較してみましょう。総議席数が100の議会で、小選挙区50・比例50という配分になっているとします。50の小選挙区のうち、A党は30で勝利しました。比例部分では、A党の得票率は40%でした。
並立制であれば、A党の獲得議席は50になります。小選挙区での30議席に加えて、比例区50議席のうちの40%、つまり20議席がA党に配分されます。30+20=50となります。比例区の議席数を正式に決定するための計算方法にはたくさんの種類があり、日本ではドント式が用いられています。
併用制の場合は、A党の獲得議席数は比例での得票率で決定されるので、100議席のうちの40%、つまり40議席になります。その40議席の内訳は、小選挙区での当選者30人と、比例名簿からの10人となります。
では、もしも併用制において、ある党の小選挙区当選者数が、その党に配分されるはずの議席数を上回ったらどうなるでしょう?これは「超過議席」と呼ばれる問題です。これについては後述します。
さて、連用制とは何でしょうか?これは、「民間政治臨調」という団体(その後、改組改称され、今は「21世紀臨調」となっています)が、1993年4月17日に発表した提言(リンク)によるもので、簡単にいうと、見た目は並立制のようで、結果は併用制とほぼ同じになるものと言えます。上に書いた例では、並立制においてA党は比例区の50議席のうち20議席を獲得しましたが、その計算の際、小選挙区で獲得した議席数に応じてペナルティーを加えるようにして、A党の最終的な獲得議席数が50ではなく40に近くなるようにします。
再び単純な例を用います。小選挙区50議席・比例50議席の計100議席を巡って、A党・B党・C党の3つが争っています。小選挙区では、A党が30、B党が10、C党が10の議席をそれぞれ獲得したとします。比例区では、有効投票総数が10万票で、A党が4万票(40%)、B党が3万5千票(35%)、C党が2万5千票(25%)をそれぞれ集めたことにします。並立制と連用制がどう違うか、比較してみましょう。
まず並立制ですが、議席数を決めるための計算方法は、上にも書きましたが、たくさんの種類があります。日本で使われているドント式をここでは使ってみます。
A党の比例区得票数は40000です。
A党 | |
得票数 | 40000 |
この表を下に長く伸ばし、40000を1で割る、2で割る、3で割る、という計算を繰り返していきます。
A党 | |
得票数 | 40000 |
得票数を1で割る | 40000 |
得票数を2で割る | 20000 |
得票数を3で割る | 13333.3 |
得票数を4で割る | 10000 |
得票数を5で割る | 8000 |
得票数を6で割る | 6666.7 |
(以下略) | (以下略) |
同様の計算を、すべての政党について行います。
A党 | B党 | C党 | |
得票数 | 40000 | 35000 | 25000 |
得票数を1で割る | 40000 | 35000 | 25000 |
得票数を2で割る | 20000 | 17500 | 12500 |
得票数を3で割る | 13333.3 | 11666.7 | 8333.3 |
得票数を4で割る | 10000 | 8750 | 6250 |
得票数を5で割る | 8000 | 7000 | 5000 |
得票数を6で割る | 6666.7 | 5833.3 | 4166.7 |
(以下略) | (以下略) | (以下略) | (以下略) |
これらの数字について、大きいものから順位をつけていきます。ここでは6番目までやってみます。
A党 | B党 | C党 | |
得票数 | 40000 | 35000 | 25000 |
得票数を1で割る | 40000 (1) | 35000 (2) | 25000 (3) |
得票数を2で割る | 20000 (4) | 17500 (5) | 12500 |
得票数を3で割る | 13333.3 (6) | 11666.7 | 8333.3 |
得票数を4で割る | 10000 | 8750 | 6250 |
得票数を5で割る | 8000 | 7000 | 5000 |
得票数を6で割る | 6666.7 | 5833.3 | 4166.7 |
(以下略) | (以下略) | (以下略) | (以下略) |
このようにして、1番から50番まで順位をつけ、順位のついた数だけの議席を政党は獲得します。この例で実際に50までやってみると、A党が20、B党が18、C党が12の議席をそれぞれ獲得します。それが比例部分の議席です。小選挙区での獲得議席と足して、最終的には、A党が50、B党が28、C党が22という議席配分になります。ここではドント式でしたが、これがサンラグ式だと、1、3、5、7、と次々と奇数で割っていきます。
これが連用制だとどうなるでしょうか。連用制の場合、ドント式と異なり、1、2、3、でなく、小選挙区での獲得議席数+1、+2、+3、という具合に割っていきます。
A党 | B党 | C党 | |||
小選挙区での議席数 | 30 | 10 | 10 | ||
比例得票数 | 40000 | 35000 | 25000 | ||
得票数を31で割る | 1290.3 | 得票数を11で割る | 3181.8 | 得票数を11で割る | 2272.7 |
得票数を32で割る | 1250 | 得票数を12で割る | 2916.7 | 得票数を12で割る | 2083.3 |
得票数を33で割る | 1212.1 | 得票数を13で割る | 2692.3 | 得票数を13で割る | 1923.1 |
得票数を34で割る | 1176.5 | 得票数を14で割る | 2500 | 得票数を14で割る | 1785.7 |
得票数を35で割る | 1142.9 | 得票数を15で割る | 2333.3 | 得票数を15で割る | 1666.7 |
得票数を36で割る | 1111.1 | 得票数を16で割る | 2187.5 | 得票数を16で割る | 1562.5 |
(以下略) | (以下略) | (以下略) | (以下略) | (以下略) | (以下略) |
併用制では、配分されるはずの議席数よりも多くの議席を小選挙区で確保してしまう政党がでることがあります。総定員100で、そのうち小選挙区50という上記の例を引き続き使います。比例区得票率がA党40%、B党35%、C党25%の場合、A党40、B党35、C党25という議席配分になりますが、もしA党が小選挙区で41議席を取っていた場合、1議席が「超過」します(英語ではOverhang seatといいます)。ドイツやニュージーランドでは、超過議席が出た場合は、総議席数をその分だけ一時的に(次回選挙まで)増やすことで、超過した分も議会に留めます。超過が頻繁に発生すると(ドイツはそうです)、議員の総数が選挙のたびに増減することになります。
この超過議席の件が、併用制の「重大な欠陥」とされることがあります。どの程度「重大」なのかは見方によりますから、ここでは論評しません。ただ、超過議席の何が問題とされるのかというと、2つの点が考えられます。1つは、総議席数が上下すること。もう1つは、最終的な各党の議席率が、比例区得票率から乖離して、併用制が本来実現するはずの比例議席配分が実現しないことです。
それに対して、連用制では超過議席は発生しません。このことが連用制の利点だとされることがありますが、そこに誤解が存在します。
どうして連用制で超過議席が生まれないかというと、実質的には、超過分が他の党から差し引かれることになるからです。A党は40議席のはずなのに41の小選挙区で勝った、という上記の例でいうと、その1議席分はB党かC党のどちらかから引かれることになり、最終的には、41・35・24、または41・34・25という議席配分になります。それによって、総議席数は本来の100のままになります。その代わりに、各党の議席率は41・35・25という超過状態に比べて、更に元々の得票率から乖離します。つまり、得票率からの乖離という代償を払って、総定数を維持するという方式であり、決して万能薬というようなものではありません。「問題点」とされる2つの現象のうち、1つを更に大きくすることによってもう1つを防ぐというだけのことです。
そして、併用制を採用している国の中では、超過議席をそのまま議会に留め置く方式(ドイツ・ニュージーランド)ではなく、他の政党の比例区獲得議席を減らすことで総定員を一定に維持する方式を取っているところもあります(例えばボリビア(1))。それは、結局のところ連用制と同じことになります。つまり、連用制が併用制に対して勝っているとされている点は、既に一部の併用制の国では採用されているので、特に新しいことではありません。
(1) Matthew Shugart & Martin P. Wattenberg (ed). 2001. Mixed-Member Electoral Systems: The Best of Both Worlds? Oxford, UK: Oxford University Press. P.23.